海溝

覚書とか忘れたいこととか

住めば都、暮らせば首都

先月末、就職を機に 約4年間住んでいた街を出て引っ越した。

最寄りの地下鉄の駅から徒歩20分。周りには家と寂れたスナックとそんなに品揃えのよくないスーパーくらいしかない、なかなかに趣深い街である。

引っ越した翌日だったかその次の日だったか忘れたが、一度深夜にタクシーで家の付近まで帰ってきたことがある。

その時に見た、新居の2つくらい先の角にある団地が人類と時代から忘れ去られた遺跡のように感じられて恐怖を感じ、歩く速度を密かに速めたのは記憶に新しい。

「23区内にこんな田舎な場所があったんだぁ…」と、上京して9年目に入ろうとしているトーキョービギナーともそろそろ言えなくなってきた非常に苦しい立場の私は日々感心しながら結構日当たりの良いベランダで洗濯を干している。

新しい家は日当たりはいいし広いけど、それ以外に特筆すべき点のないおうちだ。

何故そんな物件を選んだのかというと答えはとてもシンプルで、職場まで徒歩10分という点に惹かれたからである。

 

一方で、以前住んでいた場所に思い入れがあるかと訊かれたら首を傾げる。

一応東京都内だったが23区外で、周りに病院以外には何もないような場所だった。

そもそも何故そこに住もうと決めたかと言えば、その前に4年間住んでいた慣れ親しんだ沿線であったことと職場まで乗換無しで1本で通勤できたこと、あと楽器演奏可能物件としては家賃が割安だっただけのことである。

他の人がどういう基準で物件を選んでいるのかなんてあんま聞いたことがないけど、恐らくみんな大体この辺を重視してるんじゃないかしら。どうなのかしら。

 

そういえば、よく「都内近郊で住みたい街ランキング」みたいなものがネットに転がっている。

そういうのを見ると土地が持つネームバリューというものもひとつの基準になっているのだろうか、とも考えるが正直私としてはしっくり来ない。

「俺吉祥寺に住んでるんだよね」となっても「素敵!抱いて!」とはならないし、それよりも「私の家から徒歩1分くらいのところに23時まで営業してる品揃えの良い大手スーパーがあるんだよね」と言われた方が取っつきやすいというか、素直に「羨ましい!いいなー!」となる。

っていうか吉祥寺の魅力って何なんだろう?商店街?PARCO?いやーそんな毎日PARCOで買い物する?あ、確かに井の頭公園を気軽に散歩できるのはちょっといいかなって思う。でも絶対そんな頻繁に「うおおおおお井の頭公園散歩してええええええ」なんてならないだろうし…つくづく自分は物件に効率を求めているのだなと感じる。

 

住む場所に何を求めるのかは人それぞれだ。

私のようにとにかく職場から近い場所!あと家賃が手頃なところ!を求めて23区(笑)みたいな場所に好んで住む人間もいれば、家賃が高くても、通勤に時間がかかっても、狭くても、スーパーが遠くてもそれでもネームバリューがあるから吉祥寺に住みたい!と思う人も居るのだろう。

そう考えると何を基準に住む場所を選ぶかという話は交際相手や結婚相手に何を望むか、何を求めるかという話にちょっと似ている気がしてくる。

その人の人となりを知るには、実際好きな異性のタイプを訊くよりも「どういう物件に住みたいか」と話を振った方が早いんじゃないのかなぁ~価値観を知る上でも丁度良い物差しになるだろうし~合コンの定番の質問にしちゃえばいいのに~なんてことを思いながら私は今日も日当たりの良いベランダを満たされた顔をして掃くのである。